日本の資産額が伸びていない最大の理由は、日本が経済成長しておらず、株価や住宅価格が上昇していないからである。確かにアベノミクスに
よって株価は上がったが、それは量的緩和策の影響で日本円が減価した分を埋め合わせたに過ぎず、根本的に企業価値が増大したわけではない。
安倍政権がスタートした2012年12月時点での為替は1ドル=83.6円だったが、その後、アベノミクスの進展で円安が進み、現在では1ドル=
110円となっている。つまりアベノミクスの8年で日本円の価値は大幅に減価してしまった。日本円ベースでは株価は2倍以上に高騰したが、
米国の株価も2倍になっているので、実質的な日本株の価値は米国ほど上昇していないと判断してよい。
株式市場は各国の連動性が高く、米国株が上昇すれば、日本株も連れ高となり、米国経済の恩恵を享受できるが、不動産価格にそこまでの
連動性はない。同じ期間で各国の不動産価格は株式と同様、1.5倍から3倍に上昇したが、日本はむしろ価格が下落している状況だ。
米国など投資が活発な国でも、国民全員が株式投資に邁進しているわけではなく、ほとんどの国において国民の主要な資産形成手段は住宅への
投資である。日本の場合、庶民の唯一の資産である住宅価格が上昇していないので、相対的な資産額は減る一方である。
このようなことを書くと「何でも外国と比較すればいいというものではない」「日本は物価も安いので資産額が小さくても暮らしやすい」
といった批判が出てくるが、これらはすべて間違いである。
確かに、日本がどの国とも貿易を行わず、江戸時代のように鎖国しているのなら、そうした話も成立するかもしれない。だが現実には私たちが
購入する商品の多くは貿易によって成り立っており、輸入品や輸出品の価格というのは、国内がいくらデフレでも一切無関係に決まってしまう。
もっとも分かりやすい例が自動車である。自動車というのは典型的なグローバル商品であり、販売価格は日本国内の事情とは無関係に決まる。
自動車の平均販売価格は同じ期間で約1.4倍に上昇しているが、日本人の賃金は横ばいなので、相対的な価格はかなり上がった計算になる。
平均的な日本人労働者にとって自動車はもはや高値の華だが、諸外国では賃金や資産額がそれ以上に上がっているので、むしろ自動車購入の
負担は下がっている。
経済はストックとフローが相互循環する形で回っており、フローが増えるとストックも増え、それがさらにフローを増やす効果をもたらす。
日本人全員が得る所得のうち、資産からの利子や配当によるものは26%を占めており、決して小さくない。
仮に株式や不動産などを所有していなくても、公的年金は積立金の運用先から得られる利子や配当がないと十分な給付を維持できないし、
企業が生み出す利益の一部もこうした利子や配当で成り立っており、最終的には労働者の賃金に結びついている。
資産額が多いほど、諸外国への投資から得られる不労所得が大きくなるので、同じ労力でより多くの金額を稼ぐことが可能となる。
(続く)
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