安倍晋三首相は「経済最優先」を掲げることで底堅い支持を集めてきた。政権が発足した2012年12月からの景気回復は「戦後最長に
及んだ可能性が高い」(内閣府)とされ、国内総生産(GDP)の伸びもその「成果」に数えられる。ただ、アピールに使われる数字の
裏側に目を凝らせば、数字を大きく見せる“仕掛け”も見え隠れする。アベノミクスの成果は本物なのか−。
「名目GDPが1割以上成長し、過去最高となった」。首相はアベノミクスの成果をこう強調する。
経済の成長や景気を表すGDP。首相は15年、景気実感に近いとされる名目値を20年ごろに600兆円に引き上げる目標を掲げ、達成可能と
明言した。
15年度当時の名目GDPは500兆円程度にとどまっていたが、その後に数値が急伸。直近の19年7〜9月期は559兆円に達している。
ただ、この伸びは額面通りには受け取れない。うち30兆円程度は16年12月に算出方法を変えた影響によるものだからだ。国際基準に
合わせたり、基準年を05年から11年に変えたりした結果、企業の研究開発費などが加わって全体を押し上げた。実際、新基準の15年度は
532兆円となった。
内閣府はこうした経緯を公表しており「基準変更は国際基準に合わせる目的で、数字を押し上げる意図はない」と説明するが、政府目標は
「600兆円」のままだ。実績の“かさ上げ”で目標が達成しやすくなっており、エコノミストからは「目標を上方修正すべきだ」といった
批判の声も相次ぐ。
GDPを巡っては、来年1月発効の日米貿易協定の経済効果試算も“水増し”の疑いが出ている。
政府は10月に公表した試算で、協定発効で日本のGDPは約0・8%押し上げられると結論づけた。ただ、その前提としたのは交渉で先送り
された自動車関連関税の撤廃だった。
首相は国会で自動車関税について「交渉継続ではない。撤廃されることが前提だ」と強調した。だが米側は「日本側の野心」
(ライトハイザー米通商代表)の問題と捉えており、まともに取り合う気配はない。
(続く)
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