アベノミクスが始まった2013年以降、法人企業の従業員1人当たり付加価値は順調に増加した。とりわけ規模の大きな企業で、
この傾向は顕著だった。
しかし、この間に賃金はほとんど上がっておらず、増加した付加価値はほとんど企業の利益に回された。
なぜこのような現象が起きているのだろうか?
それは、大企業で非正規従業者が増えているからだ。
「1人当たり付加価値が増えても賃金が上がらない」というこのメカニズムが、いまの日本経済で最大の問題だ。
前回の本コラム「日本経済は『長期的な縮小過程』に入った可能性が高い理由」(2019年11月28日付)で、「就業者1人当たりの
実質GDPが2018年に低下した」と指摘した。
法人企業統計で見ると、どうだろうか?
従業員1人当たり付加価値の長期的な推移は、図表1のとおりだ。
全規模で見ると、00年代に徐々に落ち込み、リーマンショックでかなり落ち込んだ。その後、徐々に取り戻して、17年に1996年頃の
水準まで戻った。
このように、2012年以降の期間では、従業員1人当たりの付加価値は顕著に増加した。
ところが、後で見るように、この期間に、従業員1人当たりの給与(賃金)は増えていないのだ。
付加価値が増えたのに、なぜ、賃金が上昇しないのか?
従業員1人当たり付加価値の状況は、企業規模で違いがある。
以下では、資本金5000万円以上の企業を「大中企業」、資本金5000万円未満の企業を「小企業」と呼ぶことにし、これらを比較する。
大中企業の状況は、図表2に示すとおりだ。
1990年代の半ば以降、ほとんど一定だったが、リーマンショックで2008、09年に減少した。
その後、13年頃から増加し、最近までその傾向が続いている。
ただし、水準からいうと、リーマンショックで落ち込んだ分を取り戻して、最近の年度でやっとリーマンショック前に戻ったにすぎない。
他方で、小企業の状況は、図表3に示すとおりだ。
1990年代の半ばから傾向的に減少した。リーマンショックの影響は、大中企業ほど顕著ではなかった。
2008年以降、傾向的に増加していたが、18年には落ち込んでいる。
つぎに、給与水準の動向を見よう。
大中企業の状況は、図表4に示すとおりだ。2013年から最近に至るまで、ほとんど一定だ。
上で見たように従業員1人当たり付加価値はこの期間に増加しているのだが、増加分は利益に取られてしまったわけだ。
これは、後で見るように、非正規就業者を増やして、賃金を抑制しているからだ。
賃金を抑制することによって利益が増えたのである。
他方、小企業の状況は、図表5に示すとおりだ。給与水準は、若干、上昇している。とくに2017年頃まではそうだ。
(続く)
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