佐藤治彦の[エコノスコープ]令和経済透視鏡
その不安は、社会保障制度の二大柱、健康保険制度と国民年金制度に対する国民の信頼がこの20年余りどんどん下がっていることに現れている。
給料から強制的に天引きされる厚生年金などと違い、自営業者やフリーランス、学生、厚生年金などのない職場で働く非正規労働者などは、
第一号被保険者と分類されるのだが、自らコンビニや金融機関に支払いに行くか、あるいは銀行口座などから公共料金のように引き落とされる
国民年金を払わなければならない。その保険料は令和元年は毎月1万6410円。高額だ。払いたくても払えない人が多数いる。
誰も老後に年金がない生活を望んでいるはずがない。私がメディアで国民年金の制度について説明し、そのカネの出どころについても「もはや
財源の半分は税金ですから、国民年金の保険料はすでに半分納めているようなものなんです。しかし、毎月の保険料を納めないと、将来年金は
もらえないんですよ」と説明すると多くの人がうなづいてくれる。なるほどと理解もしてくれる。しかし、じゃあ、納めてくれますか?と尋ねると、
しないという。無理だからというのだ。
納めたくても払えない。老後の生活のことよりも、まずは目の前の日々の生活を何とかやりくりするだけで精一杯、そういう経済状況に
追いやられている層が少なくないのだ。
「老後を迎えるのが怖い」ーー。懸命に働く若者がふと漏らした一言を私は忘れられない。非正規労働者として働いているが、手取り15万円
ほどでは、毎月1万6千円以上の国民年金の保険料はとても払えないのは理解できる。
老後になって国民年金の基礎年金だけでは暮らしていけないのに、その基礎年金さえももらう準備さえしていないのだ。今や比較的恵まれたと
言える、中堅や大企業のサラリーマンや公務員が納める毎月の厚生年金でもらえる老齢厚生年金でも老後の生活は支えられない。年金2000万円問題
とは、厚生年金を納めている従来型の雇用状態の人に対しての警鐘だった。これが話題になったのは、つい半年前のことだ。
政府与党が年金改革を全くしてこなかったとは言わない。しかし、それは微調整ばかりである。現行の年金制度を根幹には触れていない。
その改革とは、支給開始年齢を遅くする。毎月の保険料負担を増やす。そして、マクロ経済スライド方式を導入することで国会の審議を経なくても、
毎月支払う給付水準を自動的に調整できる、つまり年金金額を減らすことができるようにしたということだ。
現行制度は維持しながら微調整してその辻褄を合わせる。これが、政治の行ってきた年金改革の実態だ。
(続く)
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