このところ日本と諸外国の賃金の違いがよく話題になる。日本人の賃金は過去20年以上に渡って基本的に下がる一方だったが、諸外国の賃金は
上昇を続けている。一部からは、賃金が高くても、物価が高いので日本の方が暮らしやすいという意見があるが、それは本当だろうか。
2018年における日本人労働者の平均賃金は4万573ドル(OECD調べ)だが、米国は6万3093ドル、ドイツは4万9813ドル、オーストラリアは
5万3349ドルと、先進諸国は総じて日本よりも高い。このような比較を行うと、為替レートでドル換算しているので不適切だという奇妙な意見が
出てくるのだが、それは完全な誤りである。
OECDの賃金比較は、より生活実感に近い購買力平価の為替レートを使って計算されており、物価を考慮した数字である。市場で取引されている
現実の為替レートは、購買力平価の為替レートよりも円安なので、現実のレートを使ってしまうと日本の賃金はさらに低く計算されてしまう。
つまり、これでもゲタを履かせられた数字なのだ。
各国の平均賃金の伸びを比較すると驚くべき結果となる。同じくOECDのデータでは、日本の平均賃金は25年近くにわたってほぼ横ばいで
推移してきたが(厳密にはわずかにマイナス)、同じ期間、米国は約2倍、ドイツは1.6倍、オーストラリアは2.1倍に賃金が増えている(いずれも
自国通貨ベース)。では、この間、日本以外の国は物価が上昇して、かえって生活が苦しくなったのだろうか。
同様に消費者物価指数の伸びを比較すると、日本は賃金と同様、ほぼ横ばいだが(厳密にはわずかに上昇)、米国は1.7倍、ドイツは1.4倍、
オーストラリアは1.7倍と各国はいずれも賃金の伸びよりも物価上昇率の方が低い。確かに各国は物価も上がっているのだが、それ以上に賃金が
上がっているので、労働者の可処分所得は増えている。一方、日本は同じ期間で、物価が少し上がったが、賃金は減ったので逆に生活が苦しくなった。
この数字だけを見ても、外国は物価が高いので暮らしにくいという話は単なる想像でしかないことが分かる。
日本にとっての逆風はそれだけではない。
私たちの生活のほとんどは輸入品で成り立っているので、海外で物価上昇が進むと、輸入品の価格が上がってしまい、日本人にとっては高い
買い物になってしまうのだ。
例えば自動車というのはグローバルな産業なので、国内事情とは無関係に価格が決まる。トヨタ自動車の1台あたりの販売価格は、95年には
225万円だったが、18年は327万円にまで上昇した。自動車の価格はデフレなどお構いなしに上がっており、もはや平均的な年収の労働者では
簡単には買えない水準になっている。一方、諸外国では自動車価格も上がったが、それ以上に賃金も上がっているので、自動車購入の負担はむしろ
低下している。
では、諸外国ではなぜ物価に合わせて賃金も上昇していくのだろうか。それは経済が活発で、GDP(国内総生産)成長率が高いからである。
(続く)
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