深夜。東京・銀座のブランドショップ。華やかな服やカバンが並ぶ、客の消えたフロアに作業服を着た男たちが集まってきた。
モップを構え、日が昇るまでに床や壁を磨き上げる。アルバイト代として支払われるのは、5時間で約7千円。朝方、スーツを
着た人の波に逆らって、寮に戻る。バイトの同僚と2人部屋。コンビニやスーパーで買う弁当とビールが「唯一のぜいたく」だ。
中村克利さん(36)は、そんな暮らしをして6年になる。地元・徳島市の高校を出て塗装業に。山口県の自動車工場でも
働いたが、リーマン・ショックのあおりで雇い止めになり、東京へ出てきた。「自分は貧困層だと思う」と言う。東京五輪後に
いまの仕事が減り、もしクビになれば「ホームレスかも」と不安が消えず、ハローワークにも通っている。
その中村さんの投票先は自民党だ。「この先どうなるかわからない。自民が引っ張っていれば、よくはならないけど悪くも
ならない」と言う。
総務省の調査によると、2018年の非正規雇用は10年前と比べ350万人あまり増え、約2120万人となった。働き手に
占める割合は約38%と過去最高の水準にある。背景には、バブル崩壊後の雇用情勢の悪化や自民党が進めた規制緩和などがある。
格差の拡大や貧困を、政治の問題とは感じないのか、と尋ねた。
「仕方ないって思う。自分がこうなったのは自分が考えた結果だから」。返ってきたのは、そんな答えだった。「政治のトップを
長い間できるのも、才能や能力があるからでは?」
生活や格差について意識の構造変化が起きている。
社会学者らが全国の1万人以上を対象にした10年ごとの大規模な調査によって、1995〜2015年にかけて、生活に不満を
持つ層が自民への支持傾向を強めたことがわかっている。
さらに早稲田大の橋本健二教授(社会学)の分析によれば、「格差が広がってもかまわない」と考える人の割合は、この10年で
各所得層で増えた。しかも増加率は貧困層で最も高く、貧困層の約4人に1人は、我が身にふりかかる不利益を受け入れている。
そして貧困層の4割は自己責任論を肯定する。
自民支持、格差拡大の容認、自己責任論、貧困層……。調査からは、これらの間に一定の関係が結べる。
本当だろうか。東京や福岡のハローワークで声をかけた。
埼玉県戸田市の無職男性(33)は「国に責任ですか。そういう考え方もあるんですね」。東京都世田谷区の
アルバイト男性(31)は「世の中にあれこれ言う前に自分を鍛えなきゃ」。いずれも自民の支持だと答えた。
https://www.asahi.com/articles/ASM713DB4M71UTIL00C.h...
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